QSE

粒子ビーム工学講座
高エネルギー材料工学分野 (野上(修) 研究室)

研究の最前線から
世界とつながる、可能性と未来を架橋する。
やりがいと醍醐味が融合する材料探索。

持続可能な社会の構築に向けた次代のエネルギー源「核融合」。

 21世紀に生きる私たちの大きな課題といえるエネルギー・環境問題。様々な方法が議論され、多くの方策が試みられていますが、その解決の切り札と目されているのが「核融合炉」です。

 核融合とは、水素のような軽い原子がもう1つの水素の原子とぶつかって1個のもう少し重たい原子ができる反応をいいます。このとき1つになった原子はごくわずかな質量(Δm)を失う代わりに、非常に大きなエネルギーを生み出します(E=Δmc2; c=光の速さ)。酸素のない宇宙空間で、太陽が燃えているのはこの原理によるもので、核融合炉が「地上の太陽」と呼ばれるゆえんです。しかし、原子核同士をぶつけて融合反応を起こさせるのは、簡単なことではありません。比較的穏やかな反応でも1億度の高い温度が必要になります(物質はすべて原子核と電子とがバラバラになるプラズマ状態になる)。また原子を高密度の環境に、長い間閉じ込めておかなければ反応が起こりませんが、超高温高密度のプラズマを収容する容器(その材料)を検討しなければなりません。

 この超高温プラズマが曲者です。現在は、磁場でプラズマを浮かせて、材料に直接触れないようにしていますが、それでも材料は、1000~2000℃になると言われています。さらに、プラズマは放射線、高いエネルギーを持った中性粒子(原子、分子)、イオンや電子、中性子といった粒子を放出するため、それにさらされた材料は、損傷を受け、材料表面の原子が勢いよくはじき出されたり(スパッタリング)します。その上、プラズマ中に放出された材料の原子は不純物として振る舞い、核融合反応の肝心かなめである高温プラズマを冷やすという悪さもします。

研究の最前線から

(左)超高温(約2000℃)環境下での加熱試験・(右)超高温環境に耐える高融点金属の試作

過酷な環境に耐える材料開発、融点3300℃の金属をターゲットに。

 非常に過酷な環境に耐える材料の開発は、いわば核融合炉の成否を握るキーテクノロジーであり、これまで世界中の研究者が探究を続けてきました。従来は炭素材(低原子番号材料)が、比較的安価で高温で融解しないなどの理由から研究が進められてきましたが、近年はそれに代わって、金属の中で最も融点が高く、硬く重いタングステン(高原子番号材料)が注目されるようになりました。

 こうした潮流に先行し、タングステンの特性に着目し、深い理解と独自の知見を蓄積してきたのが野上(修)研究室です。本研究室では、高エネルギー粒子と材料の相互作用により生ずる特性変化の研究に基づく、(核融合炉で最も厳しい環境である不純物排気装置(ダイバータ)で使われる材料としての)タングステン材料の開発と製造を担っています。材料のミクロな結晶組織の観察からマクロな機械的特性試験まで、総合的な評価を繰り返し、核融合炉に最適な材料やその使用条件の範囲を探索し、その研究成果は、現在進捗中の日米の国際プロジェクトにも反映され、未来のエネルギー源として期待される核融合炉実現の一翼を担っています。やりがいと醍醐味が融合する研究は、世界、そして未来へとつながっています。

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